「増分CPA」という概念は、見た目に騙されずに適切に予算配分を行いたい際に使える知識です。今回は、概要と使い方の解説をします。
増分CPAとは
増分CPAとは、ある地点から任意の地点まで、1CVを追加で獲得する際に必要なコスト(CPA)のことです。
経済学でいう、「限界効用」(財(モノ、サービス)を1単位追加して消費することによる効用の増加分のこと)と似た概念です。
つまりある時点での傾きを示しています。(詳しくは後述します)
コスト | CV | CPA | 増分CPA |
¥100,000 | 5 | ¥20,000 | |
¥200,000 | 8 | ¥25,000 | ¥33,333 |
¥300,000 | 10 | ¥30,000 | ¥50,000 |
¥400,000 | 11 | ¥36,364 | ¥100,000 |
¥500,000 | 12 | ¥41,667 | ¥100,000 |
この表は、コストを一定増やすとCV数が伸びていく一般的な広告媒体の数値です。
一番右側の数値が増分CPA(10万円刻み)です。
例えば、コストが30万円の時の増分CPAは「¥50,000」です。
この算出式は『コスト(¥300,000-¥200,000)/その区間で増えたCV数(10-8)』となります。
ではこの概念をどう使うのか。
ケーススタディ(追加予算が出た時)
媒体 | コスト | CV | CPA |
Yahoo!検索広告 | ¥500,000 | 20 | ¥25,000 |
Google検索広告 | ¥1,800,000 | 90 | ¥20,000 |
合計 | ¥2,300,000 | 110 | ¥20,909 |
この表のようなポートフォリオを目安に広告運用できている月がありました。
ここで追加予算が10万円出ることになりました。どの媒体に予算を足しますか?
直感的にCPAの安いGoogle検索に足しませんか?
昔の広告運用を始めた時の私はそうでした。ただちょっと立ち止まって、それぞれの媒体の増分CPAを考えてみる必要があります。
例えば、本事例の場合、過去の数値をプロット・整理してみると下記のような表となりました。
追加で10万円足すとき、どれくらいの獲得数(増分CV)が得られるのかを考えます。
Yahoo!検索では50万円→60万円の追加時、+3件
Google検索では、180万円→190万円の追加時、+1.5件となりました。
すなわち、直感に反してYahoo!検索に10万円の予算を追加することが最適解となります。
計算方法
増分CPAのプロットした表を作成するには、Excelなどの表計算ソフトを使用するのが一般的です。
以下Excelを用いて、どのように増分CPAの表を制作するか解説します。
■数式で作る
日次などの数十以上の数のあるCV・コストのデータから、対数近似曲線を作成します。
数十以上ないと、数個の外れ値があった場合にその値に引き摺られ、試算に活用できるレベルの精度の近似曲線を作れない場合があります。
- 過去のデータを活用したい時間単位(日や週)で費用(Xと定義)とCV(Yと定義)整理する
- 費用の数値から自然対数(LN(X))を作成
- 数式を用いて、YとLN(X)の対数近似曲線を作成する
- 作った対数近似曲線に任意の費用(X)を当てはめる
1~2
自然対数は、「=LN(対象セル ここでは費用)」で算出できます。
3
傾きはSLOPE関数「=slope(CVの列、自然対数の列)」
切片はINTERCEPT関数「=INTERCEPT(CVの列、自然対数の列)」
で算出できます。
4
数式「=傾き×任意のX(費用)+切片」で対数近似曲線の数式を作ります。
任意の費用(X)を入れると、その時のCV値(Y)が出せます。
グラフを書くと関係性がみえるため、実際の数値に対して人の眼で比較しやすいです。
今回は日予算で計算したので、これを30倍すれば月の近似曲線として活用できます。
■グラフから作る
- 過去のデータを活用したい時間単位(日や週)で整理する
- Excelの「挿入」→「グラフ」→「散布図」からグラフを描く
- 近似曲線を描く機能で、対数近似曲線の式を出す
- コストとCVの表を作成、CVのセルに対数近似曲線の式を代入する
- (違和感あれば、人の手で調整する)
一例の数値で作業イメージを貼ります。
1~2:散布図を描く
日次のデータで、散布図を描きました。
3:散布図から数式を導く
グラフを右クリックし、書式設定を開きます。
対数近似曲線を選択、またグラフ上に数式とR-2の表示をオンにします。
詳細は省きますが、Rの二乗の数値は統計的な信頼度を表し、0~1の区間で表示されます。1に近いほど信頼度が高いです。
0.7、0.8あたりまでいけば、広告統計としては使い勝手がよいレベルです。今回の例は0.36と信頼度は低いです。
4:数式から増分CPAを導く
使いたい間隔でコストの列を作成し、CVの列に先ほどのグラフの数式「=8.5231ln(x) – 69.492」を入力します。
ちなみに、LNはExcel上に用意されている自然対数を返すための関数です。
右列に「増分コスト/増分CV」を記載すれば増分CPAが求められます。
基本、これで完成です。違和感があれば手計算で修正を掛けます。
最初から最適な予算配分を行うには
ケーススタディでは、追加予算時の最適な予算配分について解説しましたが
そもそも最初の予算配分設計時から、最適な予算配分をするに越したことはありません。
決められた予算の中で最適なCV数を獲得する予算配分をどう求めたらよいのか。
一番シンプルな方法は、それぞれの媒体の「コストとCVの関係」を対数近似曲線で描画し(これをコストカーブと呼びます)
それぞれのコスト地点ごとに傾きを求め、最適な組み合わせを総当たりで見ていく方法です。
これまで見てきたように
最適な予算配分とは、各媒体のコストカーブの傾きが等しくなるように調整することになります。
具体的には
各媒体ごとにコストカーブの傾き(=増分CPA)の表を作成し、
各媒体の増分CPAが等しくなる点を導き出します。
それらの時点のコストを足し合わせたものが全体予算となり、
その全体予算を所与の予算に合わせていくという計算作業となります。
ただ、媒体数が2媒体だったら何とかできますが、3媒体以上となると組み合わせ数が膨大となり、Excel上の手計算では捌ききれなくなります。
どう計算すればよいでしょうか。
答えを言ってしまうと
対数の傾きの比で予算配分することが最適解となります。
(証明式は難しい・まとめるのが大変すぎるので省略します)
(ミクロ経済学の中に似た証明式があります)
媒体A | =●×LN(x)+~~~ |
媒体B | =▲×LN(x)+~~~ |
媒体C | =■×LN(x)+~~~ |
A~Cの媒体のコストカーブが上表だった場合、
コスト配分の比の最適解は
媒体A | ●/●+▲+■ |
媒体B | ▲/●+▲+■ |
媒体C | ■/●+▲+■ |
となります。
事例
具体的な事例で考えてみます。
先ほどのG・Y検索のポートフォリオにYDNリターゲティングを追加しました。
この表から、
Yahoo!検索 | =12.594×LN(x)-143.72 |
Google検索 | =41.585×LN(x)-510.02 |
YDN | =18.443×LN(x)-193.16 |
ということがわかりました。
この数式から導くに、コスト配分の比の最適解は
Yahoo!検索 | 12.594/約72.5(12.594+41.585+18.443) |
Google検索 | 41.585/約72.5 |
YDN | 18.443/約72.5 |
となります。
例えば100万円の予算であれば
Yahoo!検索 | 約17万円 |
Google検索 | 約57万円 |
YDN | 約25万円 |
となります。一見不思議ですが、計算上これが予算配分の最適解となります。
以上、増分CPAとその活用方法の解説でした。