多くの広告主において、WEB広告のKPIは、WEB上で行われるダイレクトCVが主となっています。
しかしながら、このダイレクト偏重主義は本質的なKPI設計ではなく、このダイレクトKPI依存からの脱却は早かれ遅かれすべてのWEBメディアが直面する課題だと考えています。
本記事では、ファネル別に広告のKPIを定める方法と展開を書いていきます。
目次
前提
本記事で対象とするビジネスモデル
・WEB上でCV(成果到達)が完了する商材・サービスを対象としています。いわゆるマッチングビジネスのイメージです。
(棚の占有率が重要となる消費財や、店舗で人が介在する車や薬剤、地域性の高いローカルビジネスは対象外です)
KGI
KGIは、売上(営業利益)です。
よって、マーケティング部で目指すべきは、この売上を最大化する広告予算の配分の最適化です。
Googleのアトリビューションモデルは使いにくい
私が扱う商材含め多くの商材は、ラストセッションのみを評価するモデルを採用しています。つまり、最後に接触したメディアだけを評価する方法です。
ただラストセッションのみの評価だと、認知施策など直接的なCVに関わらない施策が過小評価され、本質的な広告予算配分の最適化ができないです。
認知も含めたさまざまな広告手法の貢献度を統計的に解析・重みづけする手法として、アトリビューションモデルがあります。
例えば、Googleは、DDA(データドリブンアトリビューション)を提唱しています。
ただ、DDAはGoogleプロダクトの環境下では使いやすいものの、FacebookやCriteoなど他の主要媒体がつなぎにくく、
本質的なアトリビューションモデルの構築とそれに応じた広告予算の配分の最適化は、難易度が高い状況です。
※詳しくは下記記事へ。
この場合、予算の配分を、1広告メディアである、Googleのプラットフォームに依存する危険性もあります。
また完全にCVの重みとして換算できないブランディング目的の広告や、オフラインの広告は
既存のアトリビューション分析を行うプロダクトへ組み込む難易度が高いという課題があります。
その結果、現在、最も分かりやすいKPIであるダイレクトのKPIを軸にして、広告予算のアロケーションを行っているのが現状です。
定性的にはブランディング施策や認知目的のディスプレイ広告・動画広告はある程度効果があるだろうと考えてきたものの
このダイレクトKPIのモデルでは全く評価されず、これまで予算を投下してきてこない広告主が多いです。
ではどうやって効果設計するのか
ファネル図で対応する指標を考える
広告施策は、それぞれ目的が決められて、実施されています。
CMであれば認知、メルマガであれば継続利用の促進があります。
問題なのは、これら各ファネルの目的に沿って立てられた施策がいつの間にか、購入(売上)の指標でのみしか評価されなくなっていることです。
施策の目的に合ったKPIを設計し、そのPDCAを回していくことこそがあるべき姿です。
ファネルごとのKPI例
潜在顧客
想起率・好意度・購入意向など。アンケート調査が必須となってきます。
また、ある程度の規模の広告出稿でないと、統計的な有意差を得られず、効果がみえにくくなります。
認知
CPM(1,000回表示あたりの広告コスト)、認知率、動画完全視聴率など。
例えば、USJは初期のマーケティングの指標として認知率を採用、全国の認知率を90%以上にすることに定めました。
(引用:USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門)
比較・検討
CPAやCPCなど。目の前の費用対効果が分かりやすいためです。
継続
LTV、再購入率など。
発信
SNS上のCGM(投稿)数など。
近年、アドテクノロジーの進化で、前まで目に見えなかった数値が容易に可視化できるようになってきています。マクロミルなどの調査会社を活用すれば、ブランド意向や第一想起率など定性的な情報も獲得できます。
重要なのは、各施策ごとで追うKPIはひとつに絞ることです
メルカリの樫田さんの記事(KPIを考えるうえで重要なこと)の引用ですが
“全部追おう”は馬鹿野郎
何が重要な指標か?
と考えていると、よく起こしてしまいがちな間違いの一つとして、「あれもこれも全部見ておけば安心だ」となりがちです。人間はそれほど多くの数字を毎日見ていられません。
多くの指標を拵えすぎてもその中で日々ちゃんと見られるものは自ずと限られていきます。
この施策で追うべきなのは何なのか、本質に準じたKPIを1つ設定することが重要です。
例えばSNSマーケティングを取り上げます。
SNSマーケティングはファネルとしては「継続」や「発信」など、ロイヤルティ化・ファン化の文脈で実施されることが多い施策です。
ただ、分かりやすいがために、Facebookでは「いいね数」、Twitterでは「フォロワー数」などを追ってしまいがちです。
本質を考えると、本当に求めたいのは、SNSによってどれだけ商品・サービスが好意的に捉えられたかを追いたいわけで、
アンケート調査による「態度変容」や「好意度変容」を指標にすべきです。
そして次のステップとして、それぞれのKPIと、KGIである売上との関係性を分析し、適切な広告出稿額を推計します。
ただ、ここは難易度が高く、ビジネスモデルによっても個別具体の話になるため割愛します。
すべての貢献度を紐解くことは不可能
ただ、丁寧にファネルごとにKPIを設計し、改善を動かしていっても、施策のすべての評価が可視化できるわけではありません。
例えばこの木の画像をみて、ある企業名が思い浮かぶと思います。
ここ数年、このCMはあまり見なくなりましたが、私たちの頭にはある企業名がインプットされ、企業名想起に貢献しています。
このように、長期的に効いてくる、投資のような広告施策もあり、今現段階ですべてを評価することは不可能です。
(引用元:デジタルマーケティングの実務ガイド)
会計用語でいうBS的な形で長期的に根雪のように蓄積されていくものがあります(ブランド資産やLTV)。
短期的なPL的ゴールを追うのか、長期的なBS的ゴールを追うのか目的と仮説立てを精緻にすることが重要です。
また消費者がモノやサービスを買う理由はさまざまで一広告施策のみが起因となる場合は少ないです。
例えば、家具屋のECを利用した架空のユーザー場合を考えてみます。
CMや交通広告でなんとなく好意を抱いていた家具メーカーがあった。
友人のInstagramで良さそうな家具があったので聞いたら、その家具メーカーだった。 スマートフォンのGoogle検索で具体的な口コミを調べ、実際に店舗に訪れ、店員さんの親切なアドバイスを聞いた。 自宅に戻り、PCでYoutubeをみていたところ、家具の広告を視聴した時に購入が喚起され、検索・リスティング広告経由ECサイトから購入した。 |
これは何が購入起因だったのでしょうか?本人に聞いてもわからないと思います。
このようにブランド施策や広告、自然検索やCGMなど様々なタッチポイントがあり、すべての施策の貢献度をつまびらかにすることは不可能です。
とはいえ、広告施策は統計的に分析することである程度は効果計測が可能です。
例えば、「純粋想起」を目的に、第5週(W5)から第10週(W10)まで広告キャンペーンを実施し、下記のようになりました。
(引用元:デジタルマーケティングの実務ガイド)
第1週~第5週と第6週~第10週との純粋想起率を比較することで、広告キャンペーンの成果を測っています。
この際、必須となるのが比較対象となる2つの期間を、広告キャンペーン実施以外のすべての条件を統一することです。
そうしないと、純粋な広告キャンペーンの評価が見えなくなります(ただ当然ながら天候や社会情勢の変化は取り除くことは難しいので定性的に考慮が必要です)
具体例:認知目的の「動画」「バナー」広告指標設計の場合
「獲得」を目的とする、リターゲティング広告やリスティング広告は従来のCVやCPAの評価でも事足りると考えましたが、
「認知」を目的とする、ディスプレイ広告や動画広告は、CV・CPA評価がそぐいません。
そこで「認知」用のKPIを設計することにしました。2つの方法を実践しています。
- 定期的なアンケート調査の実施(純粋想起率を調べる。マクロミルを活用)
- ランダムサンプリングによるサイト流入の比較(流入率、CVRのリフトアップを調べる)
2つ目のランダムサンプリングは、属性が似たユーザーを日本国内からランダムに抽出し、
広告を出稿する層と広告を出稿しない層に分け、それぞれサイト流入やCVへとつながるかどうかを分析しています。
これらがKGIである売上にどう影響するかは今後分析していく予定です。
まとめ
アトリビューションというバズワードが一人歩きをし、WEB広告をすべて自動的に最適化できるような神話が出現しています。
本記事はこれを否定し、具体的にどう登っていくべきかを整理しました。
どこかの広告主様のヒントになれば幸いです。
おわり