アドテクノロジーの進歩により、インターネット広告において、取得できるユーザーの情報や出すことのできる広告のバリエーションは
等比級数のように、爆発的に増加しています。
平成28年度の総務省情報通信白書にも次のような記述があります。
今後、指数関数的性能の向上やウェブ化(クラウド化)といったICT化の進展がさらに進み、また、デジタルネイティブと呼ばれている世代のアイデアと結びつくことで、ICT利用のすそ野がさらに広がり、新たなICTサービスやそれらからもたらされる余剰が生じると考えられる。
現時点でその新たなサービスがどのようなものであるかを見通すことは困難であるが、2016年時点と比較して、25年ほど前の1990年代前半はまだインターネット利用は一般化しておらず、
10年ほど前にはまだスマートフォンも実用化されていなかったことを想起すれば、これまでICTの進化がいかに急かつ非連続であり、社会へのインパクトが大きかったかがうかがえる。
2000年代に手動で制御してきたネット広告面が、その多様性・データ面の複雑性から入札/表示自動化へ進んでいるのもその一面といえます。
近年、「データサイエンティスト」や「ビッグデータ」などのキーワードがバズワードとなっていますが、インターネット広告業界が、豊富なデータ量と金銭的な利益に直結するビジネスモデルによって、こういったデータの地位をバックアップしてきたともいえます。
一方で、インターネット広告の指標(KGI・KPI)は、5年前とほとんど変わってきていません。
旧来のコンバージョン(資料請求や商品購入)をただ一つのKPIとして置き、その許容CPAに見合う広告媒体(検索広告やSEOなどのサーチエンジンマーケティング、リマーケティングなどのディスプレイ広告)の獲得余地が少なくなっているのが実情です。A/Bテストやクリエイティブ改善など、目の前でできるCTR/CVRの改善もジリ貧に近づきつつあります。
特にこういった枯渇は潤沢な広告費をもつ大企業ほど顕著な現象となってきています。
この枯渇状況を打破するための方法の一つに「アトリビューション」という考え方/KPI設定法があります。
本記事では、
- この「アトリビューション」を取り巻く考え方
- 注目を集めつつあるDDA(データドリブンアトリビューション)の活用方法について
- 2018年現在、どういったアトリビューションツールが存在し、どんな特徴を持つのか
をまとめていきます。
目次
そもそもアトリビューションとは
アトリビューション(Attribution)は、〔~のおかげと考える/〜に起因する〕を語源とした言葉です。
元々は、株式や債券、不動産取引などの様々な要素からリターン/ゲインを分析する際に金融業界で使われていた言葉です。
それが転じて、広告/マーケティング業界では、「コンバージョンに至るまでの全ての接触メディア・経路の貢献度を測ること」といえます。
アトリビューション分析を行い、マーケティング成果最大化のために、それぞれのメディアの貢献度に応じて、マーケティング予算やリソースのアロケーション(分布最適化)を行うことを「アトリビューションマネジメント」とも呼びます。
現在、ワールドカップが開催されているので、
2018年6月25日に行われた、日本VSセネガル戦の日本側2点目で例えてみましょう。
これまでは、最後にシュートを決めた本田圭介選手のみが評価されてきました。
ただそれだと、ケイスケ・ホンダの伸び代が無くなってしまった時、日本はそれ以上に強くなれません。
そこで、
GKの気を引き付けていた岡田選手の貢献度、
アシストのパスを出した乾選手の貢献度も、きちんと評価しようよ、というのがアトリビューション分析です。
導入前の準備運動
では、より良いマーケティング予算のアロケーションを行うために、アトリビューション分析を始めてみよう!と思い立ったとします。
ただ、その前段階で、念入りな準備が必要となってきます。
モデリングの目標
まず、自分の商材に合ったモデルを考える必要があります。
モデルとは、チャネルのうち、どの段階の広告を評価するか、という重みづけです。
先ほどのサッカーの例で続けると、
アシストをした選手を強く評価するのか、
それともカウンターアタックの起点となったスティールを決めた選手を強く評価するのか、
監督の戦略やチーム状態によってそのモデリング(評価の重みづけ)はさまざまに分かれてきます。
とはいえ、評価の重みづけを変える理由は「チームを強くすること」ということを忘れてはいけません。
マーケティング領域で言い換えると、「総コンバージョン数の増加」もしくは「全体CPA」の低下を実現できるモデルが、目指すべきモデルです。
スコアリングロジック
またこの目標を実現するために、大事な条件が3つあります。(デジタルマーケティングラボさんから引用します)
アトリビューション分析では、アトリビューションスコアを使ったものから、数理モデルを駆使した複雑な分析もありますが、著者はアトリビューション分析において大事なのは、「継続的なトラッキング」「スコアリングの自動化」「スコアリングロジックの自由度」だと考えています。
この中で最も重要なのが「スコアリングロジックの自由度」。例えば、アトリビューション分析において、“広告接触”は計測できますが、“広告認知”は実際に聞かない限り分かりません。このような“聞かないと分からない要素”に対しては、アンケートで実際に聴取して、その結果を分析ロジックに組み込むなどの対応方法があるので、これを実現するために、自社のサービスやキャンペーンに合わせたスコアリングロジックのカスタマイズが必要になります。
引用:https://dmlab.jp/adtech/new_tech/adtech150831_1.html
この「スコアリングロジックの自由度」という観点は非常に重要で、それだけ理想的なモデリングを考えようとも、その数値を計測できるロジック(論理)が無ければ、後から振り返り改善を重ねることができません。
また、何か(認知度や購買頻度など)を推定するときに、果たしてそのツールから出た値は偏りがないのか、信頼性が担保できるものなのか、という部分も
アトリビューション設計段階で気を付けるべきポイントです。
インターネット広告のKPI(評価軸)であれば
- ビュー
- クリック
- CV
の大きく3つの指標が、どの媒体/どのツールでも取得しやすいKPIとなってきます。
どれだけ潜在層の掘り起こしへ重みづけするかで、よりビューやクリックへの重みが大きくなってきます。
モデリング例
では、現在、もっている過去データを使用して、どのモデリングがその商材の各チャネルの評価として最適なのか検討するとします。
どういったモデリングがあるのか、一例として、広告媒体であるGoogleAdwordsで採用されているアトリビューションモデルを見てみます。
≪↑最も慎重↑≫
- ラストクリック
- 減衰
- 線状
- 接点ベース
- ファーストクリック
≪↓最も成長志向↓(新規ユーザー重視)≫
これらは、媒体によって決められた割合を配分します。どれくらい潜在層(新規ユーザー)へ積極的にアプローチしていくか、という点で選択肢が分かれてきます。
データドリブン(DDA)
Adwordsではデータドリブンモデルというアトリビューションモデルも選択できます。
データドリブンモデルは、他のアトリビューションモデルとは異なり、参照可能なすべての経路データを使用し、アカウント全体のコンバージョン経路と非コンバージョン経路を機械学習によって評価します。
またDDA では、ユーザー行動に即した分析ができるのは当然ながら、膨大なデータを活用しながらも、自動化によって担当者の業務効率を改善できるのも大きなメリットになります(ただ、膨大なデータ量を保持していることが前提としてでてきます)
Adwordsによると、広告アカウントでDDAを利用するには、一般的な目安として、過去30日間に15,000回以上のクリックと、各コンバージョンアクションに600回以上のコンバージョンが必要となります。
公式Adwordsヘルプ:https://support.google.com/adwords/answer/6394265?hl=ja
また他の特徴として、従来のアトリビューション分析では手が出せなかった非常にCV経路が短い(検討期間が短い)商材でも適用可能なのが強みです。
アトリビューションが適さない場合
DDAの部分で戦術しましたが、購入検討期間が1日以内が殆どの商材(衝動買いしやすい商品、食品など)は、アトリビューション分析に関わる施策が向かないことがあります。
一方で、検討期間があまりにも長すぎる商材(高額な商材、家など)はそれまでに接するメディアと期間が多岐に渡りすぎるため、正確な貢献度の確認も難しくなります。
こういった商材の場合は、単純なモデリングでは分析が難しいので、数理モデル(データドリブンアトリビューション)を活用することも対策の一つです。
(とはいえ、データドリブンアトリビューションを実施するためには、アトリビューション分析を行う以上のデータの母数が必要となってきます)
アトリビューションツールの比較
代表的かつメジャーどころの7つのツールをピックアップしました。
まず大前提として
Clickはすべてのツールで計測可能です。
またViewを”すべて”計測できるツールは2018年現在存在しません。
よって、計測したいKPIと対応している広告媒体/計測媒体によってツールを選択する必要があります。
≪3PAS(第3者配信アドサーバー)≫
・Sizmek…アメリカ出身のツール。日本ではYahoo!などと提携し展開中。
・DoubleClick Campaign Manager…Google社のツール
≪広告媒体内蔵・連携≫
・GoogleAttribution
・Attribution360
…2つともGoogleのツール。GoogleAnalyticsあるいは、GoogleAnalytics360(有料版)を使用していることが条件となります。
・Facebook Measurement Solutions
≪計測ツール≫
・Adobe Media Maneger(旧サイトカタリスト)
・WebAntenna
これらのツールを計測指標、入札への介入、パスへの設定可能数、料金体系でまとめました。
現在メインで使用している広告媒体や計測ツールによって最適なものは異なってきているような状況です。
まとめると、Google関連のツールが無料で使いやすいかつ、利用できる指標の幅が広いことがわかります。またFacebookもディスプレイ広告のView計測に強みを持っています。
CriteoやFacebookを広告として使用しているならば、Facebookのツール
Googleアナリティクスを導入しているのならば、Googleのツールが良いのではないでしょうか。
アトリビューション分析の今後
スマホやPC、TVや動画、新聞雑誌など多角的なメディアに接する中で人々の購買プロセスが複雑化している現代、
一人ひとりの顧客との最適なマーケティングチャネルを設計する必要が増々高まっています。
2000年代は机上の空論だったOne to Oneマーケティングは、トラッキング技術の発展をはじめ、アドテクノロジーの発展によって実行可能なものになりました。
今回ご紹介したアトリビューション分析ツールも、その中の一つのツールにすぎません。
2018年現在は、インターネットチャネルを中心としたアトリビューションツールが徐々に広まり始めていますが、マーケティングの理想を考えると、オフラインマーケティングも統合したマーケティングプラットホームが必要となってきます。
そこで重要となってくるのが、最近のバズワードである「IOT(Internet Of Thing)」です。
これまでデータが取得できていなかったオフラインチャネルに、インターネットを繋ぎこむことで総合的な分析が可能となります。
具体的なイメージでいうと、
中国の監視カメラ社会が先行しているのかもしれません。街中のビデオ情報と、顔写真と信用情報を含む個人情報を繋ぎ込み、違法行為を行った場合、その個人の信用評価を低下させる仕組みが登場しています。
参考記事:凄まじい進化!中国の顔認識監視カメラ網
また、AmazonやGoogleが進出している音声認識デバイスも、IOTの一歩だといえます。
普通は入り込めない家庭の中のコミュニケーションチャネルへ入り込み、オンラインの情報と適切に連携されたとき、これらのデバイスは大きなマーケティングツールと成り得ます。
総合的なマーケティングプラットホームの確立へ向けて、まずは自分の商材のWEB領域のアトリビューション分析を行ってみると、新たな発見と新たな価値が生まれるかもしれません。
おわり